第60回作品

細き枝にもこもこ花芽付き出でて花蘇芳の木は春を灯せり

小浜市 塩谷 トミ子

寸 評

花はな蘇芳ずおうの花芽の様子を「もこもこ」と表現され、その豊かさや愛らしさ
ともにそこに春をみつけた作者のよろこびが伝わってきます。
ほのぼのとしたこの一首の雰囲気に惹かれました。


子には子の夫には夫の思ひありて我はその場をおろおろ歩く

小浜市 加納 暢子

寸 評 

父と子各々の言い分に一理ありと思いつつも決し難く、
狼狽する作者の姿がありありと描かれています。
下の句の具体からは可笑しいようなそれでいて
胸がキュンとなる哀しみがあります。


輝きをおさめし太陽は水平線に今しずぶずぶと沈らむとすなり

小浜市 藤井 喜美子

寸 評

この作品の眼目は四句目でしょう。「ずぶずぶ」の表現は、
まるで海水を含んだように輪郭を崩しつつ海中わだなかに入りゆく
落日を思わせ、迫力を感じます。


町内の魚屋さんや米屋さんさん付けの店消えてしまひぬ

小浜市 杉崎 康代

寸 評

馴染みの個人商店は複合的大型店舗の進出で姿を消し、
街の様子はすっかり変わってしまいました。
とともに人情まで薄れてきた…
この一首、身巡りを平易な言葉で詠み時代の変化を映し出しています。


光る風耳をすまして聞くがごと余呉湖の芽吹きは束の間にして

小浜市 辻 彌生

寸 評

余呉湖はいったことがありませんが折々の景色の
美しい風情のあるところと想像します。
上の句の作者の繊細な感性に魅力を感じました。


【 撰 谷口 正枝 】