秋の庭と登美子

2012年11月発行

 山川登美子記念館の中庭

今年の夏は格別に暑かった。熱帯夜、眠れないままに外に出て、夜空にむかって

水をまいたこともあった。秋のお彼岸を過ぎ、朝夕の冷気にふれて、季節のめぐ

りの中に生かされていることを確かに感じる。そして紅葉がうつくしい年になる

と聞くと嬉しい。

 山川登美子記念館の中庭に大きいドウダンツツジがある。扇を半分広げたよう

な形で、人の背丈よりも高い赤灯台。一昨年の晩秋は燃えたつように紅葉し見事

だった。昨年はどういうわけか色づきがよくないままに落葉してしまった。だか

らなおさら今年の秋は美しい紅葉を期待する。

   ひとすじを千金に買ふ王もあれ七尺みどり

   秋のおち髪     山川登美子『恋衣』

 山川登美子は明治時代、浪漫派の歌人として活躍したが、不治の病で二十九歳

の生涯をこの若狭の地で閉じた。生家(現在の記念館)の庭に、その頃ドウダン

ツツジがあったかどうかはわからないが、感性と才気に富んだ明治の女性をしの

ぶのにふさわしい雰囲気が、この庭にはある。

   今日は大分かげんがええし起きてみたと声

   がしそうな庭赤灯台       よしえ

 思うように生きられない淋しさを抱く登美子だが、その面影は永遠に若く美しい。

(りとむ短歌会所属 北野よしえ)