2012年10月発行
北からの冷たい風に耐えながら凛として咲く、白や薄紫のかれんな野菊。
野菊と言えば、遠い昔にみた木下恵介監督の「野菊の如き君なりき」と
いう映画を思い出します。主人公の政夫が淡い恋心を抱く、従姉の民子に
ついて次のような表現があります。「民子は野菊のような児であった。田舎
風であるが決して粗野でなく、可憐で優しくて品格があり、清楚な白色の
野菊のようだ。」
もう一つの思い出は、小学校の秋の運動会に流れていた「遠い山から吹
いてくる、こ寒い風にゆれながら、気高く清くにおう花、きれいな野菊薄
紫よ。」のメロディです。この歌の「気高く清く」という歌詞に日本人の品
格を感じます。
もう6~7年になると思いますが、数学者の藤原正彦氏の「国家の品格」
という本が話題となりました。氏はこの中で、「我が国は戦後一貫して高い
経済成長を遂げてきた。その一方で繁栄の代償に失ったものは、あまりに
も大きく国家の品格が格段に失墜した」と述べています。また、「日本古来
の武士道精神が、欧米の合理主義に飲み込まれた」とも。国家を構成する日
本人の品格が問われているのです。
モンスター・ペアレンツという言葉を耳にして久しいですが、果たすべき
義務よりも権利ばかりを主張する社会的傾向はまことに、由々しき問題です。
私たちは今一度、「気高く清く」の言葉の響きをかみしめ、日本人が生まれ
ながらにして持っている善徳や品性を取り戻したいものです。
若狭の語り部 会員 網本 恒治郎