峰みねに真綿のごとき靄かかり
山ふところの雨後の静けさ
(飯盛の峰歌集より 第一歌集) 小浜市飯盛 谷口 正枝
寸 評
飯盛山に抱かれた里の風景や村人の民情を感覚鋭く捉へている歌集。
歌は見慣れている風景も感受性豊かに捉えられ読者はハッとさせられる。
吾が嫁のさしかけくれし花柄の
日傘一つに村道をゆく
(若狭の星空歌集より 第一歌集) 小浜市東勢 杉崎 康代
寸 評
歌集は里の父母のこと。
主人亡き後の苦労のこと吾子三人の成長などを中心に編まれている。
この歌は何とお幸せな日が到来したのです。
花嫁さんと近所歩きをされているのでしょうか。
耳川を辿らば蒼き鹿の谿
木洩れ陽撫づる苔むせる巌
小浜市湯岡 宝積寺 葦 舟
寸 評
鹿の谿に穴場を見つけた作者の視点は苔をむす大きな石にあります。
「木洩れ陽撫づる」木洩れ日が静かに動いてゐた。
作者の研ぎ澄まされた感性に敬意を表します。
大雪の融け初めし中に蕗の薹
その生命の強さに我感動す
小浜市山手 池上 千代子
寸 評
雪どけの一処に蕗の薹を見つけたその時のハッとした感動が伝わって来ます。
動きの不自由な作者は、蕗の薹を見つけて頑張って生きようと、元気付けられたのが「感動す」にこめられています。
訪い来たりて母を抱けば
わが胸に温もり伝ふ幼児のごと
小浜市遠敷 上林 やすこ
寸 評
暫く会わなかった里のお母さんを尋ねて抱き合えば
母の温もりが幼児の様に伝わって来た。
何も言うことはない。お母さんが喜ばれたことでしょう。
温もりが読者に伝わります。
【 撰 池田 和栄 】