2016年2月発行
春彼岸、
三月二十一日のお大師さんの護摩焚きの朝は
まだ冷たい風が吹いています。この日は千年の昔、
弘法大師が高野山において、
悩める人を救おうと永遠の誓いを立てて入定した日といわれています。
四国八十八か所の石仏のある天徳寺では、
朝早くから村人が集まり、
八十八体の石仏への供えものをつくります。
赤飯を蒸しそれを小さな素焼きの皿に移し、
焼き豆腐、おひたしを小さな膳に載せ、
八十八体分を用意するのです。
できあがればこれを弘法大師を祀る大師堂、お大師さんまで運びます。
午後、この寺の僧がお堂に入り、
おもむろに儀式をはじめ、
火炎に向かって家内安全、無病息災などと唱えはじめると、
若狭地方に春の訪れを告げる火の祭式の幕開けです。
この護摩焚きが始まると、村の衆も立ち上がる護摩の煙に合わせて
一斉に念仏を唱えます。
それはやがて炎と念仏につつまれた厳かな世界となり、
みな自ずと「へんじょうこんごう、へんじょうこんごう」と手を合わせるのです。
このときこそ、今年も平和で豊かな年でありますようにと祈らずにはいられない、
お大師さん護摩のありがたいひとときなのです。
宝篋山 天徳寺 湯川 真乗
提供 若狭町 観光交流課