主役と名脇役

杉田玄白と言えば『解体新書』と言われるくらい、

没後二百年余を経ても今なお、

その名前は不朽のものとなっています。

一方、翻訳出版した四人のうちのもう一人の小浜藩医中川淳庵は、

それほどその名前は知られていません。

 淳庵は江戸長崎屋でオランダ人から

医学書『ターヘルアナトミア』を借り受け、

玄白に見せたところ、

漢方医学に比べオランダ医学がいかに優れているかの衝撃を受け、

蘭学の道へと突き進むきっかけを作った立役者なのです。

 玄白が八十五歳の天寿を全うし、

多大な功績を残したのに比べ、

淳庵は四十六歳でこの世を去ったからでしょうか。

 芝居や演劇では、

主役を支えるしっかりとした脇役(バイプレーヤー)がいるかいないかで、

その評価は決まると言われています。

これに例えれば、玄白が主役で淳庵は名脇役です。

来年三月の北陸新幹線敦賀開業を控え、

若狭東高校の生徒さんによる小浜土産「玄白饅頭」が考案されました。

餡には淳庵ゆかりの薬草、コウギク(杭白菊)が練り込まれていますが、

表から中身を見ることは出来ません。

食べてみてはじめてその風味の良さがわかります。

 中川淳庵は今回も、

控えめながらも存在感のある名脇役に徹したと

言えるのではないでしょうか。

                                                                                               若狭の語り部 網本恒治郎