紅梅にあわ雪とくる朝のかど
わが前髪のぬれにけるかな
山川登美子
早春の朝、うっすらと雪がかかった紅梅の花に見とれて立っていると、
雪どけの雫がこぼれて、私の前髪はぬれてしまいました。朝の光をうけて、
雫にぬれた髪はつやつやと輝いているでしょう。
季節の情緒を愛でながら、
その美しさの中に自分も溶けこんでゆく喜びが伝わってくる短歌ですね。
作者の山川登美子(一八七九❘一九〇九)は、
当地小浜出身の歌人です。大阪の梅花女学校で学んでいた頃、
与謝野鉄幹に見出され、「しろゆりの君」と呼ばれて活躍しました。
出会いの感動や友情、恋の悩ましさ、
そして夫や父との死別の悲しみなど、
折々の思いを詠むときも、
花や空の趣を手繰り寄せながら秀歌を生みました。
二十九歳の若さで世を去りましたが、
故郷で病床にある時も短歌を詠むことで心を支え、
辞世の歌も遺すなど、明治時代を凛と美しく生きたのです。
生家は山川登美子記念館として公開されています。
春には八重の紅梅が咲きます。
りとむ短歌会所属 北野よしえ