六才をはやしうかれて虫おくり
若衆ぞろひに穂波もうちぬ
『山川登美子全集』より
この短歌は小浜出身で明治時代に活躍した山川登美子の歌です。
生前に発表されず「花のちり塚」と名付けられた帳面に書き残されていました。
夏から秋へと向かうふるさとの情景を詠んだのではないかと思われます。
「六才」は六斎念仏のことでしょう。お盆にお寺や村の家々をまわって、
鉦や太鼓で囃しながら念仏を唱え踊ります。
「虫おくり」は稲の病害虫を駆除する行事です。昔はあちこちの村で、
大勢でタイマツをともし太鼓や鉦・笛囃して田んぼ道をまわって歩くことが、
よく行われていたそうです。
さて登美子の短歌を読み味わってみましょう。
お盆に村の六斎念仏に精を出した若者達が、
さぁ今度は虫おくりだと、タイマツをかかげて夕暮れの田にくり出して来ます。
田の面と空に音を響かせ、炎とともに田の小径に踏みこんで来る
若者達の熱気が伝わってきそうです。
小さないくつもの田は、風がふくと
一面の大海原のようにまだ青い稲穂が波うちます。
登美子は「若衆ぞろひに穂波もうちぬ」と詠んでいますが、
この様子は一面の稲穂が波うちながら若者達を喜び迎えているようです。
豊かな実りのために行われた虫おくり。
登美子の短歌からは、人と自然とが交感しているような
楽しげな雰囲気が伝わってきます。
りとむ短歌会所属 北野よしえ