象が小浜にやってきた

2019年6月発行

   象が小浜にやってきた。今からほぼ六百年前、日本で初めてだ。

スマトラ島(インドネシア)のパレンバンから黒潮と南風(はえ)に乗って、

はるばる小浜に遣って来た。

  小浜の人たちはどれほど驚いたことだろう。

意味不明な言葉を話す水夫達、肌の色も服装も異なる異邦人達・・・。

連れている生き物たち・・・。

食べる物も飲む物もすっかり異なっていた。

ことに当時、佛画や彫像で接しているはすべて白い象であった。

だが生きて動いている象は黒い。

まずその黒いのに驚いたことだろう。

それが「黒」だとか「黒象」という言葉になって、

古文書のなかにあるように思われる。

  応永十五年(一四〇八)五月に三代将軍義満公が死に、

直後の将軍義持公に象は献上されていった。

帝王の亜列進卿(アラジンきょう)が日本と親交をむすぼうとしての進物であったのだろう。

妙光寺 山名暢雄