深緑に映える明神湖

2019年6月発行

 明神湖は北川水系・河内川ダムによって実現した人造湖です。

備えあれば憂いなし。北川水系地域は、

これまでに度重なる洪水や異常渇水に見舞われ、

これらへの対応が長年の課題でした。 


 本格的治水事業は、大正十五年から始まりますが十分とはいえない状況でした。

嶺南出身で初の県人知事であった中川平太夫氏が、

昭和五十八年北川の洪水調節はもとより若狭中核工業団地 (若狭テクノパーク)の工業用水、

鳥羽川流域のかんがい用水と若狭町(旧上中町区域)・小浜市の上水道用水を確保するため、

多目的ダムの建設を柱とする北川総合開発計画を提唱され、

調査事業が採択となりました。


 昭和六十二年にはダム建設が着手され、

栗田知事をはじめ歴代の知事へと引き継がれ三十有余年の歳月を経て、

漸くこの六月に竣工の運びとなりました。

目の前には満々と水を湛えたダム湖に映える深緑の山々、

癒しをもたらすパワースポットとしても人気を集めそうです。

この光景を中川さんはどのような思いで見ておられるだろうか。


 安全安心な社会生活を支え、

若狭地域の恒久的発展を図るという所期の目的は達成されましたが、

湖底にはかつて三十五戸の集落があり、

人々の暮らしが営まれており、

水没された方々の尊い理解と協力との引き替えであることを、

決して忘れてはならないと思う。

若狭の語り部 網本 恒治郎