2017年12月発行
ゴマは、熱帯アフリカのサバンナを起源とする最古の油料作物で、
『千夜一夜物語』に出てくる〝開けゴマ〟の呪文は、
この物語の作られた六世紀前後に
すでにゴマが神秘的な力を持つものと認められていたことを示しています。
紀元後一〇〇年頃の中国では油に富む種子を「麻」と呼び、
本種は西域の胡から渡来した麻なので「ゴマ(胡麻)」と名付けられました。
もともとインドに起こった仏教の肉食禁忌の食事思想は、
ゴマの食文化を大いに高め、
日本では江戸時代初期に独特で地方色豊かな各種の精進料理が生まれました。
日本にはゴマに因む言葉が多く残されています。
例えば「ごまかし」は、
文化・文政年間(一八〇四~一八三〇)に江戸にあった「胡麻胴乱」という
〝胡麻の菓子〟が始まりです。
小麦粉にゴマを混ぜて焼き膨らしたお菓子で、
中空であるため見かけだけ良くて内容の伴わないものを意味するようになりました。
一方、どのような食品もゴマを加えると美味しくなるという意味だとする説もあります。
また「胡麻をする」とは幕末頃から広まった俗語で、
すり鉢で胡麻の種をすりつぶすと、
鉢の内側についてしまうので、「あちらにも着き、こちらにも着く」ということから、
他人にへつらうことの例えとされています。
小浜病院薬草園管理アドバイザー 渡辺 斉