2017年10月発行
とことはに覚むなと蝶のささやきし花野の夢のなつかしきかな
これは小浜出身の明治時代の歌人、山川登美子の短歌です。
舞ってきた蝶が「永遠に目覚めないでね」とささやいたとは幻想的ですね。
夢の中で花野(秋草の花が咲く野辺)に遊んでいたのでしょうか。
それとも花野で夢や憧れを思い描いていたのでしょうか。
どちらとも受けとれますが、時がたち、現実の生活の中で、
ふといつかのやさしい気分を思い出しているのですね。
この歌に描かれている風景
秋の野のかれんな花が咲き乱れる様子を思い浮かべると、
心の中に爽やかな秋の空気が流れこんできて、
思わず青春の頃の自由な気分がよみがえり、なつかしくなってきませんか?
知らないうちに登美子の思いを追体験しているようです。
登美子がこの歌を詠んだのは二十歳ごろのことです。
明治時代の中頃、女性が自分の意志をもち行動するのはなかなか難しい世の中でした。
現実と折りあいをつけながら生きるのは、
いつの世にもあることですが、
登美子はこのように歌うことで心を支えていたのでしょうね。
百年余り前の黒髪豊かな才女登美子が親しく思われる秋です。
りとむ短歌会所属 北野よしえ