2015年9月発行
幾通りもある「鯖街道」の中で、
小浜市上根来(かみねごり)から滋賀県高島市小入谷(おにゅうだに)へ越す
針畑越えの古道が、今回日本遺産の第一弾として認定された。
この峠道は、昭和三十年代には道としての機能を終え廃道となっていた。
その後関心ある人達により道は復元され、
今ようやく誰でもが歩けるようになり遺産として認められたのはうれしい限りである。
この道(根来坂)の中ほどに「池の地蔵」と呼ばれる石仏がある。
地元上根来の畠中助治郎氏が寄進したもので、
台座には宝暦十年(一七八〇年)の文字が彫られている。
地蔵の脇には直径一.五m深さ約四mの井戸があり、
井戸の底にはいつも水をたたえていて枯れることがない。
井戸は弘法大師が掘ったという言い伝えもあるが、
全国同じような話が残されているからこの話は疑わしい。
それより江戸時代明庵禅師が掘ったという説の方が信憑性が高い。
ただ、標高七〇〇m近くの山中なのに
ここを掘れば必ず水が出るとどうしてわかったのだろう。
不思議である。
戦後杉の植林がされる以前、付近はブナやナラの広葉樹林帯であった。
山全体が大きな水がめとして機能していたとき
貯えられた水がこの井戸へしみ出してきたものであろう。
場所は坂のちょうど真ん中。
旅人の安全を祈る石仏だったり疲れを癒やす水だったり、
ここが当時の旅人の休憩地であったことがよくうかがわれる。
鯖街道歴史研究会 杉谷 長昭