六一四年前の応永一五年六月に小浜に上陸した一頭の黒象は、
日本に初めてやって来た象だと伝わっている。
この事を記載する『若狭国税所今富名領主代々次第』によると、
スマトラ島の王、亜列進卿が、
中国の明国から認められ国際的に日本国王と認識されていた
足利義満へおくった贈り物と記されている。
義満は、五月に死去しているので黒象を見ることは無かった。
しかし、時の権力を得ていた義満は、
象を見ることができたなら何を考えていただろうか。
この黒象は、一ヵ月かけて京都に到着したが、
京都に残る史料には、この時献上された黒象は三頭であったと記されている。
さてはて、小浜に上陸した象は三頭であったのか。
それともこの時、小浜以外の湊にも象が上陸したのか。
史料に記されていないので真相を知るすべはありませんが、
小浜以外にも幻の象の上陸地があったかもしれない。
史料に記されない事柄を想像するのが歴史を想う一番の醍醐味とも言えようか。
小浜市文化交流課学芸員 川股 寛享