第56回入選作品

雑草の中に昼顔凜と咲く暑い盛りだ俺も真似たい

小浜市遠敷 川嶋 和雄

寸 評

夏の暑さに強い昼顔にあやかって酷暑を乗り切りたい作者。
下の句の口語にリアリティーがあり説得力を持つ。
ユーモラスの中に哀感もあり作者独特の世界を醸している。


主なき廃墟の庭に今年また露に濡れつつ紫陽花の咲く

小浜市城内 加地 弘忠

寸 評 

雨に咲く紫陽花は美しさがきわ立つが、廃屋の庭では
かえってあわれさを誘う。「露に濡れつつ」に余情があり
全体、寂寥感ただよう一首となっています。


五月雨にいきほひづける里山は駆けるが如く緑増しゆく

小浜市堅海 野村 雅勝

寸 評

五月雨は草木の成長を促す恵みの雨。四句「駆けるが如く」に
作者の驚きの気持ちがよく表われています。緑の広がる
里山の風景が目に見えるような季節感ある作品。


初めての先発の日は雨となり吾子は黙してグローブ磨く

小浜市青井 竹村 祐美子

寸 評

任された先発が雨の為中止となったその日の野球少年が
描かれています。
「グローブ磨く」少年の心の内を読者に連想させます。
少年と作者の距離感がとてもよいですね。


ローカル線秋の陽ざしに吊革のひとしくゆれて山峡を行く

小浜市上竹原 山口 豊子

寸 評

吊革に視点をあて詠まれたところがユニーク。
四句の「ひとしく揺れて」が作者の一番言いたかったところであり、
その振幅を愉しんでいるのが見えます。抒情ある一首。


【 撰 谷口 正枝 】