手に持てば崩れむとする封筒に
亡父の墨文字生きるごとくに
小浜市下田 小堂 裕子
【寸 評】
崩れる程に脆くなった封筒と生気ののこる墨文字との対比。
作者はその筆跡に在りし日の父と再会したような思いを募らせる。
味わいのある作品。
声もたぬ木の悲しみを児童らは
民話の劇に演じてゐたり
小浜市東勢 杉崎 康代
【寸 評】
民話劇という題材がユニークであり、初句・二句に詩情がある。
田の道を黄色い帽子のぴょこぴょこと
並びて行きぬ花咲くやうに
小浜市中井 古谷 義次
【寸 評】
第三句「ぴょこぴょこ」がよく効いている。
大きい子も小さい子も混じり登校する子らの黄色い帽子が
弾んで見え、軽やかな足どりをも連想させる作品。
霊峰と崇め見上げる若狭富士
この山ありて里が拓ける
高浜町西三松 土田 耕平
【寸 評】
「崇め見上げる」のは、作者の率直な心情であり、信仰心でありましょう。
裾野では農耕が営まれ人々の暮らしの息づきがある。
この一首、青葉山への讃歌である。
雪囲ふ板を揺さ振る風の音
縄にゆるみのありて眠れず
若狭町 岡本 小百合
【寸 評】
村里の昔ながらの風習である雪囲いを詠まれた。
厳しい冬の夜を越す作者の思いが伝わってきます。
上句にリズム感あり。
【 撰 谷口 正枝 】