立波の瓦に止まる鳶一羽
鋭き眼差しは干し魚にあり
小浜市阿納尻 倉谷 千恵子
寸評
空から獲物を見つけた鳶が屋根の上より干し魚に集中するさまに生き物のエネルギーが感じられます。
茅葺きの納屋に夜なべの稲を扱く
ランプの灯りに母の背丸し
小浜市飯盛 古谷 擴子
寸 評
戦争で大黒柱を失った母と子は寄り添いながら生きてこられた。
夜なべ仕事に追われる母の丸くなった背を少女はいたわりをもってみつめています。回想の歌。
造作の槌音高く響きをり
海辺の村に若きら戻る
小浜市堅海 領家 公子
寸 評
高く響く槌音に、都会から移り住む若い夫婦を迎える喜びが感じられ素直に詠まれています。
我が家の窓より出入りす揚羽蝶
後追ふ猫をゆらゆら躱す
小浜市多田 山田 弘子
寸 評
絵本をみるような可愛らしさ、楽しさがある。
「ゆらゆら躱す」の言葉の流れもよく小さな生き物をみる眼があたたかい。
山峡の朝のしじまに突如鳴く
雉子の鋭き声青田を渡る
小浜市下田 小堂 裕子
寸 評
山里の静かな朝の空気を破る雉の声が早苗田を辷るようにかけぬけていった。
作者の鋭い感性がその瞬間を捉え巧(うま)くうたわれています。
【 撰 池田 和栄 】
【 撰 谷口 正枝 】