第45回入選作品(平成25年4月)

冷凍の干し柿二つ解けるころ
      夫と碁友の勝負は決まる

鯖江市平井町  林 都紀恵

寸 評

冷凍の干し柿と碁の取り合わせが妙。
三句「解けるころ」に作者のこまやかな観察眼があり、静かでやさしい雰囲気を醸している。
と同時に、碁を打つ夫達をさりげなく気遣いながら自らも勝負の行方を楽しんでいる作者の
ユーモラスな面が下句に見え明るい作品となっている。


息子と夫の間に嵌る時ありて
      母にも妻にもなりて納まる

      小浜市小松原  内田 静子

寸 評

父子と云えど時には意見の食い違いや感情の対立はある。
こんな場面を「間に嵌る」と詠まれたところが巧みである。
母の顔、妻の顔となって双方を説得するのは至難だが、これ以上の妙楽はあるまい。言い得て妙の作品である。


この群れの指揮を執るもの何処に居る
         一糸乱れぬ蟻の行列

小浜市中井  近者 孝一

寸 評

私達は乾いた地面の上や軒下の隅を整然と列なしてゆく蟻の群れを日常的に眼にする。
而し誰もが見逃しがちなこの光景を作者は感慨をもって見つめている。
この一首には、作者の発見があり、 その発見が優れた短歌を生むことを教えてくれた作品である。


娘よりの賀状の余白に鉛筆の
      ひらがな踊る幼子の春

小浜市上中井  古谷 智子

寸 評

今年のお正月は娘さん達のお里帰りはなかったのでしょう。
賀状の余白にお孫さんの鉛筆書きの文を読まれてよろこびもひとしおの作者。
第四句「ひらがな踊る」に愛しさと元気に新年を迎えた孫への思いが伝わってくる。素直に詠まれています。


哀へは単に足腰のみならず
      言葉・漢字の直に出て来ず

小浜市多田  藤井 喜美子

寸 評 

老いは足腰の衰えからくると言いますが、作者は言語や記憶といった内面の機能のおとろえが並行していることを歌う。
更に続く超高齢化を生きるには、今以上の努力や知恵が要るようだ。重い歌である。


【 撰 池田 和栄 】
【 撰 谷口 正枝 】