2016年3月発行
外国人が、日本で体験したいことの第一位は、
「本場のすしを食べる」ことだそうです。
今や日本のみならず世界でも愛され、ブーム化しているすしですが、
広く知られるのは、酢飯に鮪(まぐろ)の切り身をのせて握った「握りずし」で、
多くの方はその多様性と魅力についてご存じないことと思います。
そこで食文化館では、系譜(上部略図)と再現レプリカを用い、
主原料が米と魚に限られるすしについて紹介しています。
それら多種多様なすしの中でも、田烏を中心に作られている
「若狭おばまのなれずし」は、「へしこ」を用いるため大変特徴的に映ります。
ここで言うへしことは、魚を一か月ほど塩漬けしたあと糠(ぬか)漬けし、
土用の日を越え半年以上漬けたものを指します。
これは飯を使わないため、すしにこそ分類しませんが、
保存性はなれずし(本なれ)並みに高く、糠漬けのため旨みも強く、
古くから漬物と同等に食卓や弁当に登場してきたものです。
そのへしこを流水に浸して塩抜きし、
腹に飯と大量の麹(こうじ)を挟んで二週間ほど漬けたものが
「若狭おばまのなれずし」です。
その食味は、旨みの強いへしこを使うために魚の味が格別によく、
また、たっぷりの麹を使って短時間で完成にすることから
甘味が強くて酸味が少なめで、食べなれない方でも
美味しく食べることができると評されています。
生魚を使った爽やかな味わいの握りずしも美味ですが、
発酵による濃厚な旨味が特徴のなれずしも、
昨今は、通好みとか、さらには腸内環境を整えるなどの付加価値で
注目を浴びています。この魅力に溢れるなれずしを、
まずは「若狭おばまの『へしこ』と『なれずし』」からお味見されてみてはいかがでしょうか。
御食国若狭おばま食文化館 学芸員 齋藤光子