真夜中に激しく鳴ける虫の音は
声を失せたる吾が頬ぬらす
小浜市山手 池上 千代子
寸 評
作者は病気でもされたのでしょうか。声を無くしたとあり、不自由な生活を強いられておられる様です。虫でさえ美しい声で鳴いているのに…下の句に残念さが伝わってきます。
五歳児に掬はれたりぬ出目金は
日記帳の水槽に泳ぐ
小浜市中井 古谷 智子
寸 評
何と可愛いいこと、五歳児の生活が見える様です。絵日記の水槽に泳ぐで歌が決まりました。
他人事と思ひし時もありしかな
頓に増えたり医院のハシゴ
小浜市中井 古谷 正良
寸 評
他人事と思っていた事が自分に振りかかって来る様になりました。寄る年なみには勝てませんね。
結句の医院のハシゴとは、よく言い当てました。
冬の日は漸く届き裏畑の
柚子の実わずか色づき初むる
小浜市山手 川端 宏子
寸 評
冬日が暫く届き柚子の実がわずかに黄ばむに初冬の情景をうまく描写しています。収穫が待たれますね。
初生りのレモンに子らの手が伸ぶる
小さき唇つぼませながら
小浜市三分一 小畑 志津子
寸 評
初生りのレモンを収穫されたのでしょう。下の句に読者にもつい唾が湧いてきます。この歌には臨場感がありますね。
【 撰 池田 和栄 】