へしこを食べる作法㈠

私がここで殊更取り上げて、若狭の誇るべき食文化の代表としたいのは、

「へしこ」である。へしこは焼くのがいい。

焼いて香ばしいのがいい。

生のまま二杯酢で食うのが酒のつまみとしては絶品だという酒飲みが居る。

酒の当てばかりではなくご飯にも旨いのは確かだが、

私はどうしても焼くことにこだわりたい。

どうしてへしこを酒飲みの独占物にして成るものか。

上出来のへしこは焼くときの匂いからして食欲を刺激し、

実際にへしこを食べられない人でもその匂いはおいしそうだという場合が多い。

卑しい私には、焼くときの匂いから既に十分楽しめるのである。

旨いへしこの焼きたては、箸で身をほぐすとき、

つやつやしていて、岩盤の節理のようにきれいにはがれてくれる。

これは漬けるときの塩加減と糠の量の微妙な加減のなせる技であろうか。

魚は勿論鯖。最近は地鯖でなかなかいいものはないらしく、

ノルウェー産の脂ののった大きい鯖である。           

                              書家 岸本三次