ごくろうさんやったのう

 佐分利の川上地区の入口に看板が立っている。

1つは、「ごくろうさん やったのう」、

もう1つは、「気つけて 行きなあれよ」と読める。

これが、渡辺淳さんの手跡だということは、一目瞭然である。

 渡辺淳さんは、純粋の画家であると、思う。

たとえば、淳さんは、こんな言葉を遺してくれた。

「山で見た 迷いのない みどりの美しさが 

わたしを あおい想いに 引っ張りこんで はなさない」。

 画家の目ん玉は、僕らのそれとは大いに異なっていると言われる。

たとえば色の見方である。

自然は、芸術を模倣するという言葉がある。

色は、画家のパレットの上で生まれるのだ。

淳さんのこの言葉は、画家としての面目をいかんなく伝えていると思う。

 昨年は、淳さんが亡くなって6年だった。

僕は、十一月にやったライブのタイトルを

「おかえりやす 淳さん」とした。

この言葉にも、メロディーを付して、

この日、一滴文庫にまで足を運んでくれた皆さんに、聞いてもらった。

 ライブのたびに井上耕養庵さんからお菓子の差し入れがある。

「ごくろうさんやったのう」というお菓子である。

                            若州一滴文庫  粟谷行男