第33回(平成24年4月)入選作品

せせらぎに泳ぐ魚の影見えて春の光の穏しかりけり

おおい町山田  吉田 寿和

                          

作者は卆寿の方と思いますが、老いの傷みなど詠まず明かるい春の前ぶれの歌に読者はほっと致します。ますますお元気で佳い歌をみせて下さい。 


おおかたを終へてしまひし人生の禊ぎの如く春の雪降る

市内中井  信谷 冬木

                          

そう若くはない作者でしょうか。春降る雪を眺め乍ら今日までの人生を清めてくれる様だ。禊(みそぎ)の祓(はらい)の様だと人生を厳しく見つめている作者が浮かびます。


健やかに九十の齢となりたるも 病むこともなく幸せなる日々

若狭町上野木 藤井 敏子

                          

卆寿の齢おめでとうございます。病むこともなく誠に立派な人生と敬服の一言につきます。今後もお元気で歌をお詠み下さい。


君眠る里を撫でいく月明かり薄野揺れて寝息さやさや

市内湯岡 寶積寺  葦舟

                          

村人の眠る里を名月でしょうか。撫でる様に静かに空を渡っていく薄(すすき)もゆれている静かな夜を詠まれています。


あの日より若狭の浜の原発に危ふさもちて孫抱きしむる

きしの たかひこ

 評 

原発の事故は他所(よそ)ごとではありません。「危ふさもちて孫抱きしむる」に孫の将来を思う気持ちがよく表現されました。