駐車場の片隅に設けられた狭い薬草園の中央で、
一際高く枝葉を広げている木がスズカケノキ(Platanus orientalis)です。
開園記念樹として植えられたもので、
ヨーロッパ南東部からヒマラヤに分布する落葉広葉樹です。
葉は大きくて掌状に5~7裂します。
早春、新葉の展開とともに淡黄緑色の雌花と雄花を別々に咲かせ、
晩秋には長い柄の先に径3㎝ほどの球形果を3~4個連なって下垂します。
和名は、その果房の形が山伏の着る篠懸(スズカケ)の麻衣についている
鈴玉に似ていることに由来しています。
ギリシャのコス島に生育する巨大な老樹は、
その昔ギリシャ時代の医聖・ヒポクラテスがこの木の下で
弟子達に講義した逸話から、いつしか「ヒポクラテスの木」と呼ばれています。
この老樹の種子から育てられた苗が、
今では世界中で大学の医学部や医療施設に
「ヒポクラテスの形代」として植樹されています。
この木を通じて、「生きた人間の健康を保ち、疾患を除きたい」
という先人の根強い人間愛の心を引き継ぎたいと願っているわけですね。
薬草園の木は、日本ギリシャ協会のご助力を得て
コス島から直接入手した「1995年株」から、
遺伝子が変異しないよう“取り木”という手法で増殖された個体です。
ちなみに、街路樹の「プラタナス」は、
遺伝子が異なる交雑種で、葉の切れ込みが浅く、
樹皮が斑に剥げ落ちる特徴があります。
小浜病院薬草園管理アドバイザー 渡辺 斉