第66回(令和2年秋部)入選作品


沿線の花に水やる吾が背なに過ぎゆく列車の風は秋めく

                       杉崎 康代

【寸 評】

「風は秋めく」が結句で情緒が出ていて読者を秋の世界へと導く


この空の下に禍拡がると信じられない青さ眩しき

                       山口 豊子

【寸 評】 

禍の多き世に生きる私達は空の青さに心救われる思いが伝わってくるいいお歌です。


蚊帳の中に放ちし蛍を数へつつ寝ねし時期あり父母もゐて

                       小畑 志津子

【寸 評】

幼き頃の思い出を情緒豊かにうたいあげてやさしい歌になりました。


荒れもせず若狭の土用は陽のさして河口へと落暉乗せてゆくなり

                        古谷 智子

【寸 評】

落暉( ら っき)は落日の輝きを言うので若狭の夕日の美しさを巧みに表現されました。


いつしらに野萩は庭に根付きたり枝もたわわに花満ち揺るる

                       古谷 擴子

【寸 評】

秋の風情をたくみに表現され普通の萩でなく野に咲く萩の花に焦点をあてたところに文学があるのです。


                            寸評 古谷 尚子