漢薬の「当帰(トウキ)」は、
「当(マサ)に家に帰るべし」の意で、
早く家に帰ってその根を煎服して体を温め、
一日も早く子が授かるように、と名付けられたものです。
当帰芍薬散、中将湯、四物湯など
広く婦人の諸疾患(産前産後、地の道症、更年期障害など)
に賞用される漢方処方の主薬となっていて、
血の鬱滞(ウッタイ)を去り、血を増す働きがあります。
ただ、その基原植物は中国、韓国および
日本でそれぞれ異なっており、当然含有成分の組成や
含量が違うことになるので、
作用性も微妙に違うものと考えられます。
日本では江戸時代に大和や山城地方で
野生種ミヤマトウキからの栽培・生産化が進み、
甘みの強い「大深(オオブカ)当帰」の基礎ができて、
その薬材で臨床経験を積み重ねてきた歴史があり、
今日に引き継がれています。
セリ科のトウキ(Angelica acutiloba)は二年草です。
根頭部が鉛筆以上の太さになって
一定期間寒さに遭遇すると、次々に花茎を抽台して
開花・結実し、その途上で根は空洞化して薬用にできません。
そこで、生産栽培では苗作りに特に注意が必要です。
また特有の匂いの本体はフタリド類という薬効成分で、
婦人病の方は格別〝好ましい〟匂いと感じる傾向があるとか。
お心当たりの方は薬草園でぜひ葉に手を触れてみてください。
小浜病院薬草園管理アドバイザー 渡辺 斉