2014年1月発行
およそこの地球上に、酒やそれに代わる致酸性の嗜好品
(戒律で酒が禁じられているイスラム世界にも、代わりにカートと呼ばれる
『酔う噛みタバコ』の様な物があります)が存在しない文化を持つのは
北極圏に暮らすイヌイットの人々くらいであると言われていますが
(寒冷な気候の為、アルコールの発酵やアルカロイドを含む
植物の育成が無理な為)、わが日本においても冠婚葬祭や
年中行事の場では必ずといっていいほどお酒が儀礼に用いられます。
これからの季節であれば、やはり新春を祝う御屠蘇が
第一に思い出されるお酒でしょうか。この屠蘇の起源は
古代中国から来たものと言われ、あの三国志の英雄、
曹操の治療にもあたったと言われる伝説の名医、華陀が
健康維持の秘薬として
「酒に桔梗・防風・山椒・肉桂・白朮の五種の生薬を浸したもの」を
考案したのが始まりと言われています。
やがて平安時代に我が国にも伝わり、華やかな屠蘇器が作られ
宮廷行事や貴族の風習として、やがて武士や大衆の間にも
広まっていくこととなりました。
使われたお酒は初期の日本酒
(白貴=濁り酒・黒貴=炭を使って澄ませたお酒)から
やがて清酒や赤酒(醪に灰汁を加えてアルカリ性にした赤色の甘い酒)
みりんなどを用いる様になり、屠蘇器と呼ばれる
酒器揃えによって供されます。屠蘇器は銚子、屠蘇を注ぐ盃、重ねた盃をのせる盃台、
これらを載せる盆からなり、小・中・大の三種の盃を用います。
「一人これを呑めば一家病無く、一家これを呑めば一里病無し」と言われ、
元旦の朝、東に向かって年少の者から年長の者への順にいただくのが
正しい作法とされます。
㈱若狭冨士 逸見彰則