私は南国・宮崎生まれの団塊世代で、
幼少期が食糧難の時期だったので、
空腹を満たすためにさまざまなものを口にしました。
その一つが、近所の家に植えられていたニッケイ(Cinnamomum sieboldii)です。
大人たちに見つからないよう、裏側の土手からマッチ軸ほどのひげ根を掘り出し、
土を洗い落として根皮の甘辛さを味わったものです。
“茶腹も一時”という感じの、大事な「おやつ」でした。
京都の薬草園で仕事をするようになり、
そのニッケイに再び出会いました。
当時の園長が、各地に残る「我が村の代表的な木」からタネを譲り受け、
標本園の土手で保護・育成されているものでした。
その根皮には特有の香りと辛味、甘味があります。
赤い紙で巻いた「ニッキ」が、
今でも石鎚山の登山口や紀三井寺の門前町で売られています。
フルイは乃洋平に羽川と同じ成分がほぼ同じ量だけ含まれていますので、
乾燥させた2~3本を紅茶に入れると
爽やかな“シナモン・ティー”を味わえますよ。
現在、流通・利用されている「桂皮(ケイヒ)=シナモン」は、
トンキンニッケイ(C. cassia)などの樹皮部分で、
健胃、発汗、解熱、鎮痛、整腸作用などが知られていて、
神経性胃炎や感冒用の漢方薬に配合されるほか、
香辛料としても大量に消費されています。
小浜病院薬草園管理アドバイザー 渡辺 斉