2013年5月発行
「解体新書」の翻訳者といえば、杉田玄白、前野良沢の名前を知らない人はないの
ですが、もう一人の訳者である小浜藩医、中川淳庵(じゅんなん)を知る人は多くあ
りません。その理由は、三人の中で最も若く(玄白より六歳年下です)、かつ四十八
歳の若さで早世したことによると思われます。しかし淳庵は、「解体新書」の翻訳・
出版という偉業に止まらず、オランダ商館の医師で植物学者のツュンベリーとの交流
を通じ、我が国における薬草学、植物学に西洋の知見を導入し近代化を進めたパイオ
ニアの一人でもあります。そこで、淳庵の功績を広く知って頂くために、杉田玄白記
念公立小浜病院では再開発事業の竣工に併せて、薬草園を設けました。広さは三二〇
㎡ほどあり、昨年十一月竣工式の際に、病院組合の組合長である松崎市長を迎えて、
ギリシャのコス島由来の由緒正しい「ヒポクラテスの木」(プラタナス)を記念植樹
しました(写真)。四十センチほどのかわいい若木ですが、みるみる成長して新病院
のシンボルツリーとなることでしょう。
淳庵は藩医として三代目の内科医で、若い頃から幕府医官・田村藍水に師事して薬
草学を学びました。藍水は、江戸湯島にて宝暦七年(一七五七)に初の薬品会(やく
ひんえ、物産会)を開催したことで知られ、淳庵は十九歳の時の第一回以来、毎年の
ように江戸、時には大阪で開かれた薬品会に三~六種の薬草、動植物、鉱物を出品し
ています。
今回、薬草園では、淳庵が薬品会に出品した薬草を中心に約四〇種類の薬草をご紹
介します。そのうちケイトウ、ノキシノブ、南蛮サイカチ、天台烏薬(テンダイウヤ
ク)、ハトムギやアロエ、若狭原産のセリバオウレンなど十一種類の生薬については
解説を加え、実物標本を展示します。
皆様ぜひお揃いでおいで頂ければ幸いです。
杉田玄白記念公立小浜病院名誉院長
京都大学名誉教授 小西淳二