お初(常高院)の見た海

2011年4月発行

大河ドラマ「江~姫たちの戦国~」福井県推進協議会ロゴ
文字デザイン最優秀作品 小浜市  足立直紀

 小浜市街地西部の浅間地区にある常高寺の山門からは、今でも家屋や岸壁の向こうに、青く澄んだ小浜湾の海が見えます。岸壁もなく、おそらく周囲は家屋もまばらであった江戸時代初期のころ、この地に立ったお初の目には、今以上にあざやかに海が輝き、潮騒の音が耳をかすめ、海の香りが漂ったことでしょう。

 お初の目に映っていた小浜の海とは、いったいどのようなものだったのでしょうか・・・それこそは、父長政・母お市、そして姉や妹と過ごした幸せな日々の思い出とともにまぶたに浮かぶ、琵琶湖そのものではなかったでしょうか。両腕で海を抱え込むようにして互いにせまる東の内外海半島と西の大島半島とに囲まれた小浜湾の美しい景観は、明治後期以降には「青戸」という雅語で称されるようになり、眺める位置によっては周囲をすべて陸にかこまれた、湖のような錯覚すらおぼえます。お初はこの小浜湾の景観に、琵琶湖の風景を重ね合わせていたことでしょう。光り輝く水面、そしておだやかな波の音。あの懐かしい「琵琶のうみ」を彷彿とさせるこの湾にのぞむ高台を、お初は永遠の地として選んだのでした。

(妙光寺住職 山名暢雄)