第54回入選作品

盂蘭盆の六斎念仏舞ふを見る
      母の眼(まなこ)は息子(こ)より離れず

小浜市下田 東 紀子

【寸 評】

六斎念仏は先祖を供養する念仏踊り。息子さんの所作に
見入るお母さんの描写がインパクトをもって伝わってきます。
そうしたお母さんの姿を通して大切な役目を担っている
家族(夫)の成功を祈る作者の思いが読みとれます。


男の子より祝ひくれたる木の湯呑
          木目美しひと時を撫でづ

小浜市雲浜 塩谷 トミ子

【寸 評】 

男の子とはご子息かお孫さんか。下の句からは触感まで伝わってくるよう。
男の子の優しさも嬉しい。静かな読みぶりに心打たれる作品である。


この一年かへりみすれば咎多く
          力の限り除夜の鐘つく

小浜市駅前町 津田 條

【寸 評】

苦しみと葛藤の日々を過ごして来た作者は気分を一新しようと「力の限り」「鐘をつく」。
この潔さが三後手である。
前向きに生きようとする作者、この一首から正直なお人柄が感じられます。


朝食のリンゴはうすく切りてあり
            齢九十の命養ふ

小浜市荒木 古谷 擴子

【寸 評】

九十を越えてなおお元気な作者。上の句「うすく切りてあり」に
家族の配慮がみえ、ともに命を養っていることを教えてくれる。
さりげない日常を詠んだこの一首に家族の絆が織り込まれて明るい作品。


【 撰 谷口 正枝 】