蒼島はこんなところ

小浜湾 ・蒼島に上陸せよ

「蒼島」
写真提供 若狭の語り部 岡尾正雄氏

小浜湾に浮かぶこんもりとした「蒼島」(小浜市加斗)は、島まるごとが国の天然記念物。

自生種では国内最北限となるナタオレノキをはじめ、
普段は目にすることのない暖地性櫃物の宝庫らしい。
国道27号を通るたび横目で眺めながら、一度も渡ったことのない無人島。
生態系を一目見てみたいと、船をチャーターした。
(福井新聞小浜支杜・山内弘司)

沖合わずか1キロの秘境 ~南国の草木 楽園気分~

加斗の海岸からおよそ一キロ沖。泳いでも渡れそうなところに蒼島はある。
面積はわずか約二ヘクタール。
船が近づくにつれ、国道27号から普段見る愛くるしい姿とはまるで裏腹な、
荒々しい素顔が目に飛び込んできた。

海岸部は波に削られ、大半が険しい断がい。
“本土”側に唯一ある狭い砂浜から、いざ上陸。見上げると枝を大き張り出した大木がずらり。
近くにうっそうとした森への入り口があり、まるで吸い込まれるかのように急な山道に足を進めた。

森の中は薄暗かった。
どんよりした曇り空に加え、足元の落ち葉が朽ち真っ黒に染まった腐葉土が
薄暗さをより強調している。もちろん人の気配は全くない。
聞こえてくるのは鳥のさえずりと波の音だけ。

「この辺りはちょうど暖流と寒流が渦巻く場所らしいんです。
この島の植物は、暖流に乗って運ばれた種子が育ったものといわれています」。
同行してくれた市職員の説明を聞きながらしばらく歩くと、
林の中に地をはうように大きく葉を広げる植物があった。 ムサシアブミ。
蒼島が日本海側最北限の自生地とされ、
葉を広げて群生する様子は畑のサトイモのイメージとだぶる。
だが、葉の形は全く違う。 腐葉土に濃い緑が鮮やかに映えている。

さらに奥へと進んだところで「恐らくこの木がナタオレノキじゃないかなあ」と
一本の木を示された。細長く先端がとがった常緑の葉は、ツバキの葉に似ていた。
幹は思ったよりも太くない。

「なたも折れてしまうほど堅いことからその名が付いたといわれています」との説明に、
軽くパンチを試みたら拳に激痛が走った。ほかにもスダジイ、タブノキ、ヒメユズリハ、
カラタチバナ…などなど、今まで見たことも聞いたこともない木や草花を観察することができ、
人の手が全く入っていない島には南国の楽園のような雰囲気があった。

昔、高下駄をはき天狗面をかぶった剛カの大男がいた。
青葉山の噴火で、
あちこちに飛ぴ散った溶岩をてんぴん棒で運んでいたがつまずき、
落としてできたのが蒼島と冠者島(大飯町大島)。

対岸の集落に住む池田和栄さんが教えてくれた言い伝え。
ここからも自然が作り出した島の神秘を感じずにはいられない。

2003/8/4