第53回入選作品(平成26年秋の部)

もう少し夏の匂ひが強かった
        昭和の頃の胡瓜の浅漬け

小浜市堅海 領家 公子

【寸 評 】

「夏の匂ひ」を結句「胡瓜の浅漬け」と捉えられたところに
作者のこまやかな感性が光るさわやかな一首となっています。


物言ひのつねに優しき夫なるに
        咽喉病む今は目で吾を呼ぶ

小浜市山手 加納 暢子

【寸 評】

結句の「目で吾を呼ぶ」に夫婦の強い絆を感じます。
夫を看病する作者のあたたかい眼差しがあり
癒されるような一首。お大切に。


母の着し身頃の染みもそのままに
          夏座布団に仕上がりて

小浜市飯盛 古谷 擴子

【寸 評】

「身頃の染み」に母への思いをよみがえらせている作者。
夏座布団にリフォームされて母は亡き今もみんなを
見守ってくれる筈だ。つつましさの中に深い味わいがある一首。


あかんたれのお前をのこして死ねないと
          不意に夫いふ御飯も炊けぬに

小浜市清滝 田所 芳子

【寸 評】

インパクトのある出だしにウィットを感じますが
「御飯も炊けぬに」に作者の戸惑いが読んでとれます。
結句によって妻の本心や老いなど人間の本質に触れる
重いテーマの作品となっています。これからも仲良く・・・。


タンポポの綿毛を吹きつつ孫二人
        スキップしながら春風にのる

小浜市中井 古谷 智子

【寸 評】

「春風にのる」が何とも楽しげで子供達の様子がリズミカルに
描かれています。それを見守る作者の眼差しがやさしい。


【 撰 谷口 正枝 】